狼でもいいじゃない(絶チル小ネタ)
こんにちは。
サーチのランキング見て正直ガクブルしてます駄目人間の家主、こと辻斬りです。
いや・・・開設したばっかりの御祝儀だってわかってはいるけれどもびっくりしましたどうも有り難うございます。
精一杯頑張ろうと思いますのでよろしくお願いいたします。
と言うわけで本日は絶チルの賢木先生と皆本主任の話になります。
単発ネタと言うかなんか微妙な二人のやり取りです。
グリム童話がモチーフなので単に此処に持ってきたかっただけみたいな気もする。
地下30メートルぐらい深読みしてやっとこさ女性向けというレベルの小咄ですがそれでよろしければ追記開いてどうぞ。
++++++++++++++++++++++++
狼でもいいじゃない
「どうしていい加減な事ばかり言うんですか?」
子羊は尋ねます。
「もう少し近くに来たら教えてあげるよ」
狼は優しそうに手招くのです。
子羊はどうしても、その理由が知りたくなりました。
賢木修二が特定の女と付き合わないのは
①特定の誰かはもう別に居るから
②特定の誰かに縛られたくないから
胸の内側は誰にもわからない。
彼自身が読ませないようにしている。
何度ダブルブッキングで複数の女が鉢合わせして酷い目に遭っても全く懲りる気配の無い遊び人。
高嶺の花と噂されるあのバベルの受付嬢コンビに向かって、
「どっちでも良いから今度デートしない?」
と訊いて両方に断られたのは有名な話である。
どちらか片方誘うだけでも至難の業だというのに『どちらでも良いから』とは大層な口説き文句だ。
其処まで行くと余程自分に自信が有るか女に興味が無いかのどちらかではないだろうかとさえ言われている。
年齢の割に。
「・・・考えてみれば、お前もまだ世間的には『若者』の域なんだよな」
紙コップの中で湯気を立てているインスタントコーヒーを見つめながら、親友にそう指摘され、彼は茶目っ気たっぷりにウインクして笑う。
「まあな。一応まだ『二十代前半の若者』っていう枕詞が付くし?」
その笑い方は余り若者らしくない。
精神感応系の能力者は他者の感情に否応無く触れてしまう為、早々に達観してしまう者も少なくはないという統計が出てはいるが、それにしてもと相手は首をかしげる。
異国の地で出会った当初の賢木修二は、どちらかと言うと達観とは真逆の位置に居たような気がするのだが。
「そういうお前こそ、歳より随分所帯染みてんじゃないか、皆本?」
「そうか?」
「普通二十歳過ぎの男が子守に加えて掃除洗濯料理の家事全般を手際良くこなすのは珍しいだろうよ。しかも勤め人だろ?」
「うーん・・・流石にそれは周りに流された結果というか他所の子供を預かる以上親御さんに申し訳の立たない生活をさせるわけにはいかないからと言うか・・・結局は僕がそういう『実家の母とか心優しい他者に甘えるだらしの無い典型的若者の生活』に耐えられないだけなんだけどな」
「そう思ってるだけの奴は居ても、思ってる上で全部自力でこなす奴は珍しいっての」
「うん・・・?」
何だか話しているうちに段々話題をすりかえられているような気がしてきて、皆本光一は傾げた首を逆に振る。
「今話してるのは僕の家事能力じゃあなくて、お前がまた複数の女性との約束を掛け持ちした所為で自宅の前でトラブルになった結果、昨日からうちに泊まりに来てる事に対する今後の対策考案だったはずなんだが?」
「いやいや、最初に話そらしたのはそっちだろ」
「僕はただ思いついたことを口に出しただけで発展させたのはお前だ」
「まあ俺もまさか玄関のドアが壊れるとは思わなくてさあ」
そうなのだ。
昨夜、賢木修二は皆本光一に助けを求めて来た。
丁度チルドレンの三人娘は学校の宿題に取り組んでいた最中だったし、洗い物も一通り片付いた時刻だったので皆本が直々に現場に向かうと、賢木の自宅の、玄関の扉に穴が開いていたのだ。
しかも賢木の顔には擦り傷ではなく切り傷が出来ていた。
直後到着したパトカーは、顔も知らない隣人が通報したものだったらしく、警官に事情を聞かれた賢木は実に申し訳無さそうに、
「怒った女友達が扉にボウガンを撃ち込みまして」
とのたまった。
怒り狂った挙句に男の部屋にボウガンで武装して駆けつける女が何処に居るんだと思った皆本と警官だったが、数分後、自主的に交番に出頭した女の情報まで飛び込んできてそれが嘘偽りの無い事実だと知れることとなる。
何でも、二回連続でダブルブッキングの憂き目に遭った不幸な女性がたまたまサバイバルゲームが趣味のアグレッシブな彼女だったらしい。
賢木曰く、そんな趣味があるとは聞いていなかった、との事。
(実際、本人の口からは聞いていなかったんだろうと思われる)
部屋の中からはボウガンの矢と、賢木の顔に切り傷を作った凶器と思われる大振りのナイフが発見され(というかナイフはリビングの床に放置されていた)、内装もガラスが割れたり観葉植物の鉢植えがひっくり返っていたりと散々な有様だった。
本当に、武装した女とマンションの部屋の中で追いかけ合いを演じていたらしい。
呆れ顔の警官に女遊びも程々にするようにと釘を刺され、扉の修理と窓ガラスの嵌め直しが終わるまでと言う条件で、彼は皆本の部屋に転がり込む事となったのである。
業者はもう手配してあるから、明日にはもう賢木は自宅に戻れる計算なのだが、今回のような事が何度も起こる様では困るし第一小さな女の子を三人も預かる場所に独身の若い男を何度も泊まらせるのは情操教育にも良い影響は無い、と怒る親友の申し出により、対策を案じる場が設けられたのだ。
言い出した皆本自身『独身の若い男』だろうという軽口は叩けそうにも無い気配だった為、賢木はその申し出に応じて此処に居る。
「まず、ダブルブッキングを防ぐには一番単純な手段があるだろう」
「スケジュール帳?」
「当り。というか、わかってんなら使えよ!」
「デートの予定一々ノートに書き込むってださくね?」
「ださかろうが格好悪かろうが約束は頭で覚えるだけじゃなくて何処かにメモを書いて残しておくのが常識だ」
そう言いながら、まあ確かに賢木の言い分もわかるけれど、彼は付け加える。
約束事はスケジュール帳に書いておくのが常識だが、デートの約束をスケジュール帳に書き込む男、というのもどこか間が抜けている気はする。
思念を読まれたくないと思い、賢木のような接触感応能力者がスケジュール帳など個人的な所有物をあまり持ちたがらないという話も聞く。
それでも、書面に残さずその約束を忘れた結果がトラブルに繋がってしまうのだから、間が抜けていてもストレスになろうとも、手段は選んでいられない。
「見られたりが嫌なら、プライベート用のスケジュール帳と、人に見せても支障無い仕事用のスケジュール帳をそれぞれ一冊ずつ用意すれば済む話じゃないか?」
「・・・皆本」
「何だ?」
「お前が俺の予定も管理するってのは」
「却下だ却下!お前の面倒まで見てられるか!」
「冗談だよ」
へらへら笑う賢木に、皆本は呆れ半分で怒っている。
本気で怒るほどの事ではないにしろ、この二歳年上の友人の女関係が派手なのは今に始まった事ではないので、いつか本当に大事になりそうな気がして心配はしているのだ。彼なりに。
そして賢木は、その心配されているという皆本の感情にもちゃんと気付いている。その能力ゆえに。
お互い言葉には出さないだけで、理解はし合っている。
ただ皆本には、賢木が怪我をしてもまだ懲りてない様子なのが、其処だけ理解できずにいた。
「・・・怪我してもまだ、女の子を誘うのは止めないんだな」
「当たり前だろ」
「開き直るんじゃない」
「男は皆狼って言うし?」
「あのなぁ・・・」
釘を刺そうとしても相手はまだ笑顔だった。
更に言えば言うほど賢木が笑顔になりそうな気がして、皆本はそこで話を切る事に決めた。
好奇心に負けた子羊をぺろりと平らげ狼は言いました。
『全部方便さ。だって俺はただお前を食べたかっただけなんだから』
終
++++++++++++++++++++++++
≪言い訳≫
冒頭と末尾につけた小咄は、子供の頃読んだグリム童話より。
確か題名は『狼と羊』だった気がする。
小川の水を飲みたい子羊を狼が口先で誘導し、最後は追い詰めて食べてしまうという話。
最初から最後まで残酷で全く救いの無い話のため、かなりマイナーです。
高校生ぐらいの頃に『本当は残酷なグリム童話』という解説本が流行りましたが、私の家に有ったグリム童話とイソップ童話は最初っから残酷な部分も全部載ってる本でして、今更何を言うのやらという感想を持っていた記憶があります。
多分基本、絶チル関係は童話モチーフで行くのかもしれない。
2009年1月10日・辻斬りマリィ
サーチのランキング見て正直ガクブルしてます駄目人間の家主、こと辻斬りです。
いや・・・開設したばっかりの御祝儀だってわかってはいるけれどもびっくりしましたどうも有り難うございます。
精一杯頑張ろうと思いますのでよろしくお願いいたします。
と言うわけで本日は絶チルの賢木先生と皆本主任の話になります。
単発ネタと言うかなんか微妙な二人のやり取りです。
グリム童話がモチーフなので単に此処に持ってきたかっただけみたいな気もする。
地下30メートルぐらい深読みしてやっとこさ女性向けというレベルの小咄ですがそれでよろしければ追記開いてどうぞ。
++++++++++++++++++++++++
狼でもいいじゃない
「どうしていい加減な事ばかり言うんですか?」
子羊は尋ねます。
「もう少し近くに来たら教えてあげるよ」
狼は優しそうに手招くのです。
子羊はどうしても、その理由が知りたくなりました。
賢木修二が特定の女と付き合わないのは
①特定の誰かはもう別に居るから
②特定の誰かに縛られたくないから
胸の内側は誰にもわからない。
彼自身が読ませないようにしている。
何度ダブルブッキングで複数の女が鉢合わせして酷い目に遭っても全く懲りる気配の無い遊び人。
高嶺の花と噂されるあのバベルの受付嬢コンビに向かって、
「どっちでも良いから今度デートしない?」
と訊いて両方に断られたのは有名な話である。
どちらか片方誘うだけでも至難の業だというのに『どちらでも良いから』とは大層な口説き文句だ。
其処まで行くと余程自分に自信が有るか女に興味が無いかのどちらかではないだろうかとさえ言われている。
年齢の割に。
「・・・考えてみれば、お前もまだ世間的には『若者』の域なんだよな」
紙コップの中で湯気を立てているインスタントコーヒーを見つめながら、親友にそう指摘され、彼は茶目っ気たっぷりにウインクして笑う。
「まあな。一応まだ『二十代前半の若者』っていう枕詞が付くし?」
その笑い方は余り若者らしくない。
精神感応系の能力者は他者の感情に否応無く触れてしまう為、早々に達観してしまう者も少なくはないという統計が出てはいるが、それにしてもと相手は首をかしげる。
異国の地で出会った当初の賢木修二は、どちらかと言うと達観とは真逆の位置に居たような気がするのだが。
「そういうお前こそ、歳より随分所帯染みてんじゃないか、皆本?」
「そうか?」
「普通二十歳過ぎの男が子守に加えて掃除洗濯料理の家事全般を手際良くこなすのは珍しいだろうよ。しかも勤め人だろ?」
「うーん・・・流石にそれは周りに流された結果というか他所の子供を預かる以上親御さんに申し訳の立たない生活をさせるわけにはいかないからと言うか・・・結局は僕がそういう『実家の母とか心優しい他者に甘えるだらしの無い典型的若者の生活』に耐えられないだけなんだけどな」
「そう思ってるだけの奴は居ても、思ってる上で全部自力でこなす奴は珍しいっての」
「うん・・・?」
何だか話しているうちに段々話題をすりかえられているような気がしてきて、皆本光一は傾げた首を逆に振る。
「今話してるのは僕の家事能力じゃあなくて、お前がまた複数の女性との約束を掛け持ちした所為で自宅の前でトラブルになった結果、昨日からうちに泊まりに来てる事に対する今後の対策考案だったはずなんだが?」
「いやいや、最初に話そらしたのはそっちだろ」
「僕はただ思いついたことを口に出しただけで発展させたのはお前だ」
「まあ俺もまさか玄関のドアが壊れるとは思わなくてさあ」
そうなのだ。
昨夜、賢木修二は皆本光一に助けを求めて来た。
丁度チルドレンの三人娘は学校の宿題に取り組んでいた最中だったし、洗い物も一通り片付いた時刻だったので皆本が直々に現場に向かうと、賢木の自宅の、玄関の扉に穴が開いていたのだ。
しかも賢木の顔には擦り傷ではなく切り傷が出来ていた。
直後到着したパトカーは、顔も知らない隣人が通報したものだったらしく、警官に事情を聞かれた賢木は実に申し訳無さそうに、
「怒った女友達が扉にボウガンを撃ち込みまして」
とのたまった。
怒り狂った挙句に男の部屋にボウガンで武装して駆けつける女が何処に居るんだと思った皆本と警官だったが、数分後、自主的に交番に出頭した女の情報まで飛び込んできてそれが嘘偽りの無い事実だと知れることとなる。
何でも、二回連続でダブルブッキングの憂き目に遭った不幸な女性がたまたまサバイバルゲームが趣味のアグレッシブな彼女だったらしい。
賢木曰く、そんな趣味があるとは聞いていなかった、との事。
(実際、本人の口からは聞いていなかったんだろうと思われる)
部屋の中からはボウガンの矢と、賢木の顔に切り傷を作った凶器と思われる大振りのナイフが発見され(というかナイフはリビングの床に放置されていた)、内装もガラスが割れたり観葉植物の鉢植えがひっくり返っていたりと散々な有様だった。
本当に、武装した女とマンションの部屋の中で追いかけ合いを演じていたらしい。
呆れ顔の警官に女遊びも程々にするようにと釘を刺され、扉の修理と窓ガラスの嵌め直しが終わるまでと言う条件で、彼は皆本の部屋に転がり込む事となったのである。
業者はもう手配してあるから、明日にはもう賢木は自宅に戻れる計算なのだが、今回のような事が何度も起こる様では困るし第一小さな女の子を三人も預かる場所に独身の若い男を何度も泊まらせるのは情操教育にも良い影響は無い、と怒る親友の申し出により、対策を案じる場が設けられたのだ。
言い出した皆本自身『独身の若い男』だろうという軽口は叩けそうにも無い気配だった為、賢木はその申し出に応じて此処に居る。
「まず、ダブルブッキングを防ぐには一番単純な手段があるだろう」
「スケジュール帳?」
「当り。というか、わかってんなら使えよ!」
「デートの予定一々ノートに書き込むってださくね?」
「ださかろうが格好悪かろうが約束は頭で覚えるだけじゃなくて何処かにメモを書いて残しておくのが常識だ」
そう言いながら、まあ確かに賢木の言い分もわかるけれど、彼は付け加える。
約束事はスケジュール帳に書いておくのが常識だが、デートの約束をスケジュール帳に書き込む男、というのもどこか間が抜けている気はする。
思念を読まれたくないと思い、賢木のような接触感応能力者がスケジュール帳など個人的な所有物をあまり持ちたがらないという話も聞く。
それでも、書面に残さずその約束を忘れた結果がトラブルに繋がってしまうのだから、間が抜けていてもストレスになろうとも、手段は選んでいられない。
「見られたりが嫌なら、プライベート用のスケジュール帳と、人に見せても支障無い仕事用のスケジュール帳をそれぞれ一冊ずつ用意すれば済む話じゃないか?」
「・・・皆本」
「何だ?」
「お前が俺の予定も管理するってのは」
「却下だ却下!お前の面倒まで見てられるか!」
「冗談だよ」
へらへら笑う賢木に、皆本は呆れ半分で怒っている。
本気で怒るほどの事ではないにしろ、この二歳年上の友人の女関係が派手なのは今に始まった事ではないので、いつか本当に大事になりそうな気がして心配はしているのだ。彼なりに。
そして賢木は、その心配されているという皆本の感情にもちゃんと気付いている。その能力ゆえに。
お互い言葉には出さないだけで、理解はし合っている。
ただ皆本には、賢木が怪我をしてもまだ懲りてない様子なのが、其処だけ理解できずにいた。
「・・・怪我してもまだ、女の子を誘うのは止めないんだな」
「当たり前だろ」
「開き直るんじゃない」
「男は皆狼って言うし?」
「あのなぁ・・・」
釘を刺そうとしても相手はまだ笑顔だった。
更に言えば言うほど賢木が笑顔になりそうな気がして、皆本はそこで話を切る事に決めた。
好奇心に負けた子羊をぺろりと平らげ狼は言いました。
『全部方便さ。だって俺はただお前を食べたかっただけなんだから』
終
++++++++++++++++++++++++
≪言い訳≫
冒頭と末尾につけた小咄は、子供の頃読んだグリム童話より。
確か題名は『狼と羊』だった気がする。
小川の水を飲みたい子羊を狼が口先で誘導し、最後は追い詰めて食べてしまうという話。
最初から最後まで残酷で全く救いの無い話のため、かなりマイナーです。
高校生ぐらいの頃に『本当は残酷なグリム童話』という解説本が流行りましたが、私の家に有ったグリム童話とイソップ童話は最初っから残酷な部分も全部載ってる本でして、今更何を言うのやらという感想を持っていた記憶があります。
多分基本、絶チル関係は童話モチーフで行くのかもしれない。
2009年1月10日・辻斬りマリィ
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